『バー堂島』 吉村喜彦 著
2019年10月12日発売。 ハルキ文庫(580円+税)
大阪・北新地のはずれ。
堂島川沿いにそったビルに、『バー堂島』はあります。
たった5席の小さな店ですが、
店の大きな窓からは、堂島川の川景色がゆったりと見渡せます。
『バー堂島』には、4つの短編がおさめられています。
春夏秋冬の季節ごとに1篇ずつ。
「春~うらら酒」
「夏~プカプカ酒」
「秋~舟唄酒」
「冬~シャッフル酒」
主人公は、マスターである楠木正樹。年齢は50台半ば。
楠木正成の末裔を自称していますが、ほんまかどうかは、わかりません。
かつて京都の大学時代、ブルースバンドを組み、レコード会社に目を付けてもらって
東京に出たけれど、鳴かず飛ばず。
二子玉川のバー・リバーサイドでアルバイトをしながらミュージシャン活動をしていましたが、
「もうあかん」と思って、海外逃亡。
世界各地で音楽とバーテンダーの勉強をして、生まれ故郷の大阪にもどってきて、
小さなバーを堂島にオープンしました。
●第1話「春~うらら酒」
マスターのバンド時代の仲間(ボーカリスト)が、声の良さをいかして
、いまは釜ヶ崎で坊さんをやっているという設定です。
その坊さんは、春と秋のお彼岸過ぎに年に二回だけバー・堂島にやってきます。
行き倒れの多い釜ヶ崎で坊さんとして生きながら、いま、かれが感じることは何なのか?
たまたま店に来合わせた金持ち坊主と出会うことで、考えるというお話。
☆飲みものは、
白ワインのソーダ割り(スプリッツァー)
カルーア・ミルク
ドラフトギネス
ジャック・ダニエルのオン・ザ・ロック
きんきんに冷えたカンパリでつくるカンパリ・ソーダとカンパリ・シェケラート
イタリアの白ワイン「ガヴィ」
ディタのミルク割り
☆シェーキーズのピザ
イタリアン・レストランテのピッツァ・マルゲリータとジェノベーゼ
音楽は、
アルバート・キングのブルースが店内にかかっています。
●第2話「夏~プカプカ酒」
タイトルは、じつは、ディランⅡの「プカプカ」からもらっています。
泳げない人を泳げるようにするスイミングスクールのインストラクターの女の子が
主人公。彼女は、大正区生まれの大阪ウチナーンチュ(沖縄系大阪人)。
泳げないオバチャンに泳ぎを教えながら、水にプカプカ浮くことは、どういうことなんやろか、とマスターとマスターの親友の金田(天満駅近くのお好み焼き屋の主人)と話しあいます。
最後に出てくる、
ウイスキー・フロート(水に浮かんだウイスキー)が決め手です。
☆飲みものは、
「オールド・フォレスターのミント・ジュレップ」
「ホワイトホースのハイボール」
「コントラット」イタリアのスパークリング・ワイン。
「グレンモーレンジィのウイスキー・フロート」
☆音楽は、
グレゴリー・ポーターの「アンダー・ウオーター・ザ・ブリッジス」が店内にかかっています。
●第3話「秋~舟唄酒」
大手電器メーカー松風電器の宣伝部を定年した山本茂雄(64歳)は、
茨木市内の自宅で妻と二人暮らし。
家事をやっても、妻からは舌打ちされ、邪険にあつかわれている毎日。
会社員時代のような、自分の居場所というものがない。
唯一の気晴らしは、船や電車の写真を撮ることと月一回の「バー堂島」通い。
バー堂島でたまたま同席した漁師の若者と意気投合。
(この若者は、日本酒メーカーのコールセンターに勤めていたが、
その仕事に嫌気がさして、淀川河口にある漁協に就職。漁師になった)
海や水辺、船が好きな者同士が語り合ううち、二人とも大阪の「渡し船」が好きなことが判明。その話のなかから、山本茂雄は、定年後の自分の生きがいを見つけられるかも、というヒントをもらう。
☆飲みものは、
バスクのワイン「チャコリ」
南スペインのフィノ・シェリー
ポルトガルのルビー・ポート(生チョコレート・ケーキに合わせて)
クォーター・デッキ(後ろ甲板)というカクテル
☆食べ物は、
大阪湾で獲れた生シラスをつかったブルスケッタなど
音楽は、
ナット・キング・コールの「枯葉」
●第4話「冬~シャッフル酒」
「FMなにわ」でDJをしていたブルース・ミュージシャン星川凛太郎(四天王寺生まれ)は、昨日、とつぜんプロデューサーから番組終了を告げられ、ショックのあまり、
バー堂島にやってくる。
やはり、昨日とつぜんの番組終了を告げられたディレクターの池辺優子
(東京出身。1年半前にFM江戸っ子からFMなにわにやってきた優秀なディレクター)は、星川凛太郎がきっとバー堂島に愚痴を言いに来てるだろうとやってくる。
あまりに無礼なプロデューサーのふるまいに憤懣やるかたない二人。
池辺優子には、しかし、たくらみがあった。
優子は、東京で知的なトークで人気だったDJボビー・ギャラガー
(イギリスのリバプール生まれ。アイルランドと台湾、インドネシア、日本の血が入っている)
も、あるラジオ局のプロデューサーから突然解雇され、
いま、配偶者の住む大阪に移住してきていることを知っていた。
「ボビーと凛太郎と組み合わせて、何か大阪らしい新しいラジオ番組をつくれないだろうか」
優子は、バー堂島で、ボビーと凛太郎を引き合わせた・・・。
☆飲みものは、
アーリータイムスのオン・ザ・ロック
ジェムソンのハイボール
インドネシア・バリ島の焼酎「アラック」など
☆食べ物は、
「うそ焼き」「モダン焼き」「そばめし」
インドネシアの納豆「テンペ」
☆音楽は、
ライ・クーダー「アクロース・ザ・ボーダーライン」
Tボーン・ウオーカーのTボーンシャッフルの話がでます。
インドネシアのグサンの歌う「ブンガワン・ソロ」
全編にわたって、心地よい、大阪ならではのやさしい音楽が流れています。
食べ物も、大阪らしい「ざっくばらんな」食べもの。
堂島川が夕暮れのひかりに、あかね色に染まっています。
「ゆうぐれのときは、かぎりなく やさしい ひととき」
という詩の一節がありました。
『バー堂島』での、ふんわり、人間味あふれる
やさしいひとときに、つかの間、こころをほどいていただければ、と。
あせらず、イキらず、ぼちぼちいきまひょ。