ルーマニア・ブカレストのオトペニ空港は、空港というより、どことなく、映画「アメリカン・グラフィティー」に出てくる田舎の飛行場といった趣だった。
着陸するとき、成田ほどの大きさの空港内にある飛行機の数を上空から数えてみると12機しかいない。
空港の周囲は青草の茂る大平原。まっすぐ延びた道には、車はほとんど見あたらない。高く晴れ渡った空の下、ボーイング737は、短い影を引いて悠々と舞い降りた。パリのシャルル・ド・ゴール空港から3時間。成田を発って22時間の旅だ。
ファンファーレ・チォカリーアのドイツ人マネージャー、ヘルムートが迎えに来てくれていて、かれの運転するレンタカーで、空港から一路、ルーマニア北東部モルダヴィア地方のゼチェ・プラジニ村を目指した。そこはジプシーだけの住む村で、ファンファーレ・チォカリーアのメンバーの大半が暮らしている。
村までは直線距離で300キロ余り。
6時間ほどの行程だ。
4月中旬のブカレストの気温は東京とほぼ同じ。空気は温かく、湿度は低い、爽やかな気候だ。ただ、陽射しはかなり強い。
モルダヴィア地方に通じるまっすぐな道は完璧に舗装されていて、車は時速140キロで快調に突っ走る。ポプラ並木が明るいみどりの葉を風に揺らし、桜そっくりの花を咲かせた樹々がところどころ淡い彩りを添えている。
村の女の子やおばさんが採れたてのイチゴを道端で売っている。
風景の輪郭はおぼろで、やわらかい。
左手にカルパチア山脈のあおい山並みが霞ながら長く続いている。
街なかは、制限速度50キロで走らねばならないが、それ以外の場所では猛スピードで走るので、パトカーの取り締まりが厳しく、ついにぼくらの車もつかまってしまった。
周囲はみどりの大平原。羊飼いがのんびりと羊を追っている。そんな所で、警官に切符を切られているのも不思議な図だ。