JF全漁連のウエブマガジン「サカナディアSakanadia」の連載
『ニッポンさかな酒』にて、
「ギネスとフィッシュ&チップスの記事が掲載されました。
http://www.monkeyhouse.co.jp/wp-admin/post.php?post=4453&action=edit
____________________________________________
アイルランドのギネス・ビールが好き。
あの真っ黒な液体を見るだけで、飲みたくなる。
ギネスは、1759年ダブリンの醸造所で誕生
日本でいえば、寛政の改革で有名な松平定信が生まれた年である。
ローストした大麦をつかい、上面発酵で醸造されたギネスの味は濃厚。苦みと酸味が強い。
グラスに注いだとき、きめ細かくクリーミーな泡が底のほうから煙のように湧き上がる。
注ぎ終わってから泡が落ち着くまで、すこし待つ。
これをギネスではサージングと呼ぶ。
ギネス社では「待つひとには、良いことが来る」と言い、
「1パイントのギネスを完璧に注ぐには、119.53秒を要す」
と待つことの重要性を高らかにうたっている。
この2分弱があの美味しいギネスをつくりあげるのである。
ギネスに合う食べものは、なんといってもフィッシュ&チップス。
タラやカレイ、オヒョウなど白身魚のフライに、フライドポテトを添えたもので、
19世紀半ばにイギリスで生まれた料理。
イギリスでは酢(モルト・ビネガー)と塩をかけて食べる。
テイクアウトが多いが、パブ(現地ではポブと発音される)でもよく食べられる。
労働者階級の食べもので、テイクアウトのとき、
むかしは新聞紙に包んで出されていたが、
げんざいは衛生面の問題もあり、ふつうの紙に包まれている。
そういえば、ぼくの生まれた大阪でも、
1950年代~60年代、お好み焼きは新聞紙に包まれて出されていたことを思い出す。
フィッシュ&チップスは高級紙「タイムズ」よりも大衆紙「ザ・サン」で包まれたものの方が美味い、
とも言われていたようだが、たしかにそうだろう。
大阪のお好み焼きは、文化住宅の1階でおばちゃんが焼いてくれたものを新聞紙に包んで食べるのが一番おいしい。
それと同じことだ。
ロンドンのポブでは皿に載って出されたフィッシュ&チップス。
ダブリンでは、聖パトリック大聖堂近くの店(アイリッシュのバンド、U2のメンバーが行きつけ)
でテイクアウトし、大聖堂の庭で食した。
『ガリバー旅行記』の作者ジョナサン・スウィフトはこの大聖堂で主席主祭をつとめ、
いまはこの地に眠っている。
スウィフトの生きている時代には、まだフィッシュ&チップスはなかった。
白身魚のフライにビネガーをたっぷりかけて食べながらギネスを飲んだら、厭世的で変わり者だったスウィフトはどんな感想を言っただろう。
そんなことを思いつつ、つめたい風に吹かれて庭で食べるフィッシュ&チップスは、また乙なものだった。