作家・吉村喜彦のホームページ

梅雨どきには、京都に。
 しっとりと雨に濡れるみどりのなかを、東山に沿って歩くのがいい。
京都1
 なにより好きなのは、京都で食べる鮎。
 京都2
 十年前のこの季節、
学生時代に下宿していた銀閣寺道(ぎんかくじみち)近くにある、割烹「中善(なかぜん)」を知った。

 そこで食べた若鮎の味が忘れられず、
 あじさいのこの季節、
 鮎を食べ、心と身体をみどりに染めるため、京都に向かうのです。
京都3
   *    *    *

「中善」で食す鮎は小ぶり。

 北大路魯山人(きたおおじ ろさんじん)が
鮎は三、四寸くらいのもの、と書いていますが、まさにその大きさ。
若鮎
 鮎は香魚とも。
 元気はつらつな鮎に鼻を近づけると、どこか胡瓜のようなみどりの香りがします。
 これがまたこの時節の雨に似合っています。
鮎に串
 そして姿もいい。
 鮎は水が清く流れの急な川で育つと、より姿が凛々しくなるそうです。

 鮎は、一匹一匹口をひらかれ、頭のほうをやや下にして焼き上げられます。
 こうすると、脂が鰓(えら)から口を通って落ち、すっきりとした味になります。
鮎に塩
 ぱらりと塩をかけて焼き上げられた鮎は、皿の上ですっくと立つ。
 これを箸でつまみ上げ、頭のほうから食すのです。
鮎の塩焼き
 天稟(てんぴん)の香気、ほのかな苦み。

 淡く上品な甘みが苦みと手をたずさえてやって来る。
 まるで日の光が射すなか、細かい雨の降る日照雨(そばえ)のように、涼やかな気配。

 やはり、鮎ははらわた。
 きれいな苦みが、梅雨の晴れ間のような清涼の気を送ってきます。
梅雨の晴れ間
    *    *    *

 この鮎は安曇川(あどがわ)で獲れたもの。
 ならば、合わせる酒は近江の酒、喜楽長(きらくちょう)辛口純米酒。
喜楽長
 軽やかなそよ風のようなこの酒をまずはぬる燗で。次いで、冷やで。
 近江米と鈴鹿山系の伏流水で仕込まれたこの酒が、舌を洗ってくれる。
 キレが良いのに、優しくやわらかな味わい。

 いっけん相対立するものが共存する、
 まさに、日があるのに雨が降る「日照雨」の酒。
喜楽長2
 おとなの味わいというものは、こういうビタースイートの包摂にあるのだと、洛東で鮎を味わいながら思います。

 京の梅雨は、じつに奥深いのです。
 ちおんいん
 
 
 
 
 
 
 

 
 

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