先日、伊豆大島唯一の酒造所「谷口酒造」にお邪魔しました。
メイン商品は「御神火(ル・ごじんか)」という焼酎(芋も麦もある)です。
(御神火とは、三原山から吹き上がる聖なる噴火のこと)
すっきりとした香りときれいな後味が特徴です。
谷口酒造は、 創業1937年。
いま三代目の谷口英久(たにぐちえいきゅう)さん(60歳)が杜氏兼オーナーとして、
仕込み・蒸留・貯蔵・瓶詰めとすべての製造工程を一人でこなしています。
酒造所に着くと、こぢんまりとして品のいい緑の館が見えてきます。
屋根は全面芝生で覆われ、てっぺんに椿の木が一本。
ここはショールームで、ツバキ城というそうです。(設計は藤森照信さん)
仕込み室に案内してもらうと、
モーツァルトのレクイエム(鎮魂歌)がかかっていました。
「焼酎の仕込みは祈ることからはじまる」と英久さんは言います。
睡眠時間を削り、ひたすら酒を造り続けていると、やがて疲労の極みに達し、
「あっちの淵が見えてきて、神経が研ぎ澄まされるんです。
すると不思議なことに、もろみの気持ちがわかるようになる。麦や芋のささやきが聞こえてくるんです」
もともと人間にとって酒は「あちら」と「こちら」をつなぐメディア。
英久さんはまさに現世と来世の「間(あわい)」に立って、酒を造っているように思いました。
それが、あの「澄みきった水のような」焼酎になっているのでしょう。