国立能楽堂で「乱(みだれ)」をみました。
「猩々乱(しょうじょうみだれ)」とも言うそうです。
猩々というのは、海に住む、酒好きの、猿のような妖精。
真っ赤な顔で、チャーミング。
* * *
あらすじは──。
その昔、揚子江のほとりに高風(こうふう)
という親孝行の男が住んでいました。
高風は「酒を売れば多くの富を得る」という夢のお告げにしたがい、
酒を売っていました。
あるとき、いくら酒を飲んでも酔う気配のない者があらわれます。
不思議な人だな、と名をたずねると、
「猩々」とこたえて去っていきます。
秋風の吹く、燗酒恋しい、月の夜。
高風が酒を用意して、川辺で待っていると、
猩々があらわれます。
葦の葉ずれは笛の声。寄せくる波は鼓の音。
猩々は気分よさそうに、波を蹴たてて舞い踊ります。
猩々は、高風の、親を思う素直なこころを褒め、
汲めども尽きぬ酒壺を与えます。
酒のめでたさを讃え、
足どりは、ふらりふらり──。
と、高風の夢が覚めます。
見ると、そこには酒壺がそのまま残っているのでした。
♪白菊の 着せ綿を温めて 酒をいざや汲もうよ
* * *
能をみおわった後、蕎麦屋で菊正宗の燗酒を飲んだのは
言うまでもありません。